缶切り

固定刃型缶切り

缶切り(かんきり)とは、缶詰を切断しながら開封するために用いる道具である。

概要

1810年イギリスのピーター・デュラントが、軍用の保存食として画期的な缶詰を発明した[1]。しかし、缶詰を容易に開ける手段までは発明した本人も考えていなかった。そのため缶詰はハンマーのみで叩いて開けるか[注釈 1]、道具がない戦地では銃剣ナイフを缶に突き立てて無理やりこじ開けたり、銃で撃ち飛ばして開封されていた[1]。しかし、この方法は銃剣が破損したり怪我をしたり中身が飛散したりし[1]、あまりにも不便であった。そのため缶を開く道具が工夫され、缶詰の発明から数十年たった1858年アメリカ合衆国のエズラ・J・ワーナーにより、引き廻して開ける方式の缶切りが発明された[1]。その約10年後、缶の縁を切る方式が発明された。

現代の缶切りは、コルク抜付き[2]栓抜き付き[2]、プルタブ起こし(プルタグ起こし)付きのものもある。栓抜きの機能も合わせ持つ缶切りは、道具の両端にそれぞれ栓抜きと缶切りが位置するため、この道具を指して栓抜きと呼ばれる場合もある。

缶切りは、使用者の利き手の違いに対応するため、右利き用と左利き用とがあり、一般に市販されているものの多くは右利き用であるが、少数ながら左手用も存在する。アーミーナイフでも缶切りの付属する物は多いが、こちらも右手用・左手用の両モデルが存在する(一部メーカーのみ)。

かつては、缶詰は缶切りが無ければ開けられなかったが、清涼飲料水では1960年代ごろより、1970年代後半より食品の小型の缶の缶蓋でもイージーオープンエンドの採用がすすみ(イージーオープン缶)、大抵は缶切りを用いなくても開缶可能となっているため、一般における缶切りの利用頻度は減少している。

しかし、未だ開封に缶切りを要する缶詰も流通しており、また、陸上自衛隊戦闘糧食I型のように、軍事用で空中投下を前提としているため、このような方式の使えない缶詰では、やはり缶切りが必要であるため、缶に缶切りが付属している場合もある。

分類

通常、缶切りはてこ式ねじ式とに分けられる[3]。このほかコンビーフ缶の巻取式などがある[3]

てこ式

アーミーナイフの缶切り
左・押し切りタイプ
中央・引き切りタイプ
右・一般的缶切り(引き切り)

鋭利な金属製の刃と、缶の縁(リム)にひっかける金具から構成され、手動で缶の縁を移動しながら円周方向に蓋を切断していく形式(固定刃型)である。

てこの原理を用い、少ない力で大きな切開力を生み出しており、作用点は刃の切断点で、支点が縁の引っ掛かりであるが、力点は支点の両側にあるタイプと、缶上部に向かって伸びているハンドル部分のみのタイプがあり、後者は押し下げるタイプと押し上げる(引き上げる)タイプの物がある。

缶を切る方向では、押して切るタイプと引いて切るタイプがある。たとえばスイスアーミーナイフに付属の缶切りの場合、ウェンガー社のものは引き、ビクトリノックス社のものは押しタイプである。ウェンガーがビクトリノックス傘下に入った後もブランド毎の異なる形式は引き継がれている。

切断面が鋭利なギザギザになるため、缶の縁の内側に不用意に手をかけた場合、指先に怪我をする場合がある。切り取った蓋の扱いにも同様に注意を要する。

ねじ式

  • 回転刃型缶切り(上面用)
    回転刃型缶切り(上面用)
  • 回転刃型缶切り(側面用)
    回転刃型缶切り(側面用)

ローラー状のブレードと缶の縁に引っかける金具から構成され、ハンドルを回すことにより蓋を切開していくもの(回転刃型)。缶の上面を切断するタイプと、側面を切断するタイプがある。

上面を切断するタイプ
この機構を電動化した電動缶切りが、欧米家庭で普及している。これを模したものがアメリカ映画バック・トゥ・ザ・フューチャー』の冒頭シーンに、タイマー仕掛けでドッグフード缶詰を開ける用途で登場する。
側面を切断するタイプ
蓋の接合部の側面を切断するタイプは、切屑が缶の中に入りにくい特徴がある。

巻取式

コンビーフ缶や一部のレーション用のもの。あらかじめ缶の周囲に付けた極浅い溝(傷)に沿って、缶の外装を帯状に巻き取る為に使用するもの。一部で、巻取鍵などと呼ばれる。缶に溶接・引きちぎりで取り外すか、あるいはシールで貼り付けで付属しているため、単独での販売はされていないし、一般にはその都度使い切りで再利用もされない。まれに缶から脱落して開ける前に行方不明になることもあり、この場合にはラジオペンチなど、他の工具で代用することがある。

開缶器

開缶器(穴あけ器)
食用油練乳など、中身が液体のみで固形物の入っていない缶詰めに使用する。昔の缶飲料には飲み口がない代わりにこれが付属しており、これを使用して缶に小孔を穿ち、飲料を取り出していた。缶飲料にはイージーオープンエンド(プルタブ式のちにステイオンタブ式)が広く普及したため、現在ではこの形式の缶飲料は発売されていない。飲料缶に付属の穴あけ器は飲料メーカー名が刻印されていたため、一部でコレクションの対象になっている。
塗料など、工業分野の一斗缶では2024年現在でも使用されている。
開缶器(Vカッター)
一斗缶等の角にV字形の穴を空け、内容物を取り出せるようにするもの。空気孔と流出用の孔を空けるために使用される。

電気缶切機

缶の上部にセットしてスイッチを入れると、電動で缶切り作業が行われる器具も市販されている。電気缶切機[2]や電動缶切りなどと呼ばれる。

脚注

[脚注の使い方]

注釈

  1. ^ そのため、缶詰には「のみとハンマーで(天面の縁回りをぐるりと切って)開けてください(Cut round on the top near the outer edge with chisel and hammer)」と注意書きが書かれていた。“金属缶の誕生(製缶技術の変遷・金属缶の歴史)”. 日本製缶協会. 2016年8月22日閲覧。

出典

  1. ^ a b c d フジテレビトリビア普及委員会『トリビアの泉〜へぇの本〜 6』講談社、2004年。 
  2. ^ a b c 意匠分類定義カード(C6) 特許庁
  3. ^ a b 『Cook料理全集9 かんづめ料理と冷凍食品』 p.177 千趣会 1976年

関連項目

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