真空管式コンピュータ一覧
真空管式コンピュータ(しんくうかんしきコンピュータ)とは、第一世代コンピュータとも言い[1]、真空管論理回路を使用したプログラム可能なデジタルコンピュータである。それ以前には電気機械式リレーを使用したシステムがあり、その後には(集積回路ではない個別の)トランジスタを使用したシステムがある。1940年代から1950年代にかけて製造されたが、1960年代に入ると信頼性に優れ、消費電力の少ないトランジスタの普及に伴い真空管式コンピュータは廃れた。
この一覧では、真空管式コンピュータの中でも特筆すべきものを挙げている。その中には、トランジスタを併用しているものもある。
名称 | 年月 | 備考 |
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Atanasoff–Berry Computer | 1942年 | チューリング完全ではなく、プログラム可能ではない。線型方程式系を解くことができる。 |
Colossus | 1943年 | 初のプログラム可能(スイッチとプラグパネルによる)な電子デジタルコンピュータ。暗号解読用コンピュータで、ドイツのローレンツ暗号(英語版)の解読のために使用された。21世紀に完全動作するレプリカが作製され、ブレッチリー・パークの国立コンピューティング博物館でデモンストレーションされている。 |
ENIAC | 1945年 | 初の大規模な汎用プログラマブル電子デジタルコンピュータ。ペンシルベニア大学ムーア・スクール(電気工学部)がアメリカ陸軍の弾道研究所のために建造した。当初は部品間の配線を変更することでプログラムされていたが、後にプログラム内蔵方式に変更された。 |
Manchester Baby | 1948年 | 1948年6月に稼働した初のプログラム内蔵方式の電子コンピュータ。Manchester Mark Iのプロトタイプ。マンチェスター科学産業博物館(英語版)でレプリカが実演されている。 |
SSEC | 1948年 | IBMが開発した電気機械式計算機。 |
Manchester Mark I | 1949年 | 1949年4月に稼働。初のインデックスレジスタ。1951年にFerranti Mark 1に置き換えられた。 |
EDSAC | 1949年 | 1949年5月6日に稼働し、1958年までケンブリッジ大学で使用された。完全動作するレプリカがブレッチリー・パークの国立コンピューティング博物館にある。 |
BINAC | 1949年 | 初の商用のプログラム内蔵式コンピュータだが、動作が不安定だったため、顧客先では使用されなかった。 |
CSIRAC | 1949年 | 現存する最古の第一世代コンピュータ。ただし、修理されておらず、動作しない。 |
SEAC | 1950年 | アメリカ合衆国で初めて稼働したプログラム内蔵式コンピュータ。国立標準局が製作し、局内で使用された。ロジックに半導体ダイオード回路を使用した。以降のコンピュータのいくつかはSEACの設計に基づいている。 |
SWAC | 1950年 | アメリカ国家標準局が使用した。2,300の真空管が使われていた。ウィリアムス管を使用した、256ワード(37ビット幅)のメモリを備えていた。 |
UNIVAC 1101(ERA Atlas) | 1950年 | 2,700本の真空管を論理回路に使用した |
MADDIDA | 1950年 | 微分方程式を解くための専用デジタルコンピュータ。6トラックの磁気ドラムを使用して、44台の積分回路が実装された。積分回路の相互接続は、ビットの適切なパターンをトラックの1つに書き込むことによって指定された。 |
パイロットACE | 1950年 | アラン・チューリングが設計した。 |
Elliott 152(英語版) | 1950年 | 海軍の火器管制用コンピュータ。リアルタイムの制御が可能なシステムだが、プログラムは固定式だった。 |
Harvard Mark III | 1951年 | 5,000本の真空管と1,500個のダイオードを使用した。 |
Ferranti Mark 1 | 1951年 | 初の商用で稼働したコンピュータ。Manchester Mark Iを元に設計された。 |
EDVAC | 1951年 | ENIACの後継機で、同様にペンシルベニア大学ムーア・スクールがアメリカ陸軍弾道研究所のために建造した。世界で初めて設計されたプログラム内蔵方式コンピュータの1つであるが、稼働開始が遅れた。EDVACの設計がまとめられた「EDVACに関する報告書の第一草稿」は、多くの他のコンピュータに影響を与えた。 |
ハーウェル・コンピュータ | 1951年 | オリジナルが稼働する世界最古のコンピュータ。ブレッチリー・パークの国立コンピューティング博物館で時々デモンストレーションが行われる。 |
Whirlwind | 1951年 | 約5,000本の真空管を使用。初めて磁気コアメモリを使用。 |
UNIVAC I | 1951年 | 世界初の商用コンピュータ。46台が製造された。 |
LEO | 1951年 | 世界初の顧客側によって作られたコンピュータ。レストランチェーンであるJ・リヨンス(英語版)が製造した。EDSACを元に設計された。 |
UNIVAC 1101 | 1951年 | ERA(英語版)が設計した。論理回路に2,700本の真空管を使用した。 |
ホレリス電子計算機(英語版)(HEC) | 1951年 | アンドリュー・ドナルド・ブース(英語版)が最初の設計を行い、ブリティッシュ・タビュレーティング・マシン(英語版)(BTM)が製造した。HEC 1はブレッチリー・パークの国立コンピューティング博物館に展示されている。 |
IASマシン | 1951年 | プリンストン高等研究所(IAS)にて製造された。ジョン・フォン・ノイマンの設計(ノイマン型)に基づいていることから、「ノイマン・マシン」とも呼ばれる。1,500本の真空管を使用した。このコンピュータを元に15台のコンピュータが製作された。 |
MESM | 1951年 | ソビエト連邦初の汎用電子コンピュータ。キエフ近郊で製造された。6,000本の真空管を使用した。基本的にノイマン型アーキテクチャに近い設計だが、プログラム用とデータ用の2つの独立したメモリを持っていた。 |
Remington Rand 409 | 1952年 | レミントンランドが製造した。パンチカード計算機であり、プラグボードでプログラミング可能であった。 |
Harvard Mark IV(英語版) | 1952年 | ハワード・エイケンの指導の下でハーバード大学がアメリカ空軍のために製造した。 |
G1 | 1952年 | ゲッティンゲンのマックス・プランク物理学研究所のヘインズ・ビリング(英語版)らにより製造された[2][3][4]。 |
ORDVAC | 1952年 | イリノイ大学が弾道研究所のために製造した。ILLIAC Iと互換性があった。 |
ILLIAC I | 1952年 | イリノイ大学が製造した。教育研究機関が自前で開発して所有した最初のコンピュータ。 |
MANIAC I(英語版) | 1952年 | ロスアラモス国立研究所がIASマシンをベースとして製造した。 |
IBM 701 | 1952年 | IBMがIASマシンをベースとして製造した。1号機は米国原子力委員会に納入され、「国防計算機」とも呼ばれた。 |
BESM-1, BESM-2 | 1952年 | ソビエト連邦で製造された。 |
Bull Gamma 3 | 1952年 | フランスのグループ・ブルが製造した。約400本の真空管を使用した[5][6][7]。 |
AVIDAC(英語版) | 1953年 | IASマシンをベースとして製造された。 |
FLAC(英語版) | 1953年 | SEACをベースとして製造された。パトリック空軍基地(英語版)に設置された。 |
JOHNNIAC(英語版) | 1953年 | ランド研究所がIASマシンをベースとして製造した。 |
IBM 702 | 1953年 | IBMが製造したビジネス用途のコンピュータ。 |
UNIVAC 1103 | 1953年 | ERAが設計した。 |
RAYDAC | 1953年 | レイセオンが海軍ミサイル試験センターのために製造した。 |
ストレラ(英語版) | 1953年 | ソビエト連邦で製造された。 |
データトロン(英語版) | 1954年 | エレクトロデータ(英語版)が製造した商用コンピュータ。 |
IBM 650 | 1954年 | 世界初の大量生産されたコンピュータ。 |
IBM 704 | 1954年 | 世界初の浮動小数点数演算ハードウェアを搭載した量産機。科学用途向け。 |
IBM 705 | 1954年 | IBM 702とほぼ互換性のある業務用コンピュータ。ミュンヘンコンピュータ博物館に動作しない状態のものが所蔵されている。 |
BESK | 1954年4月 | スウェーデン初の真空管を使用した電子計算機であり、製造時は世界最速の計算速度を有した。 |
IBM NORC | 1954年12月 | IBMが米海軍装備局のために製造した。世界初のスーパーコンピュータであり、少なくとも2年間は世界最速のコンピュータだった。論理回路に9,800本の真空管を使用した。 |
UNIVAC 1102(英語版) | 1954年 | 米空軍のために製造されたUNIVAC 1101のカスタマイズ版。 |
DYSEAC | 1954年 | アメリカ国立標準局が製造したSEACの改良版。トラックの荷台に据え付けられており、世界初の可搬式コンピュータである。 |
WISC(英語版) | 1954年 | ウィスコンシン大学マディソン校が製造した。 |
CALDIC | 1955年 | コスト低減と操作の容易性を基本理念として設計製作された。 |
イングリッシュ・エレクトリック DUECE(英語版) | 1955年 | ACEの商用版。 |
Zuse Z22(英語版) | 1955年 | 初期の商用コンピュータ。 |
ERMETH(ドイツ語版)[8][9] | 1955[10] | チューリッヒ工科大学でエドゥアルト・シュティーフェル、ハインツ・ルティスハウザー、アンブロス・シュパイザーにより製造された。スイス初の真空管式コンピュータ。 |
WEIZAC(英語版) | 1955年 | イスラエルのワイツマン科学研究所で製造された。初の中東で設計されたコンピュータ。 |
アクセル・ヴェナー=グレン ALWAC III-E(英語版) | 1955年 | |
IBM 305 RAMAC | 1956年 | 初の二次記憶装置として可動ヘッドハードディスクドライブを使用した商用コンピュータ。 |
SMIL(英語版) | 1956年 | スウェーデンでIASマシンをベースに製造された。 |
Bendix G-15 | 1956年 | ベンディックス社が科学・工業用に製造した小型コンピュータ。450本の真空管と300個のゲルマニウムダイオードを使用した。 |
LGP-30 | 1956年 | リブラスコープ(英語版)が製造したデータ処理システム。113本の真空管と1450個のダイオードを使用した[11]。 |
UNIVAC 1103A | 1956年 | ハードウェア割り込みを持つ初のコンピュータ。 |
FUJIC | 1956年 | 日本初の電子コンピュータ。富士フイルムでレンズの性能計算のために設計された。 |
Ferranti Pegasus(英語版) | 1956年 | 事務用の磁歪遅延線メモリを備えた真空管コンピュータ。完全動作品が残る世界で2番目に古いコンピュータ[12]。 |
SILLIAC | 1956年 | シドニー大学でILLIACとORDVACをベースに製造された。 |
RCA BIZMAC(英語版) | 1956年 | RCA初の商用コンピュータ。25,000本の真空管を使用した。 |
ウラルシリーズ | 1956 - 1964年 | ソ連のコンピュータ。Ural-1からUral-4までが製造された。 |
DASK | 1957年 | デンマーク初のコンピュータ。初期のALGOLが実装された。 |
UNIVAC 1104 | 1957年 | UNIVAC 1103の30ビット版。 |
Ferranti Mercury(英語版) | 1957年 | フェランティによる初期の商用真空管式コンピュータ。コアメモリとハードウェアによる浮動小数点演算を備えていた。 |
IBM 610 | 1957年 | 個人での使用を念頭に置いて設計された小型コンピュータ。世界初のパーソナルコンピュータの一つ。 |
FACIT EDB(英語版) 2 | 1957年 | |
MANIAC II(英語版) | 1957年 | カリフォルニア大学とロスアラモス国立研究所が製造。 |
MISTIC(英語版) | 1957年 | ミシガン州立大学がILLIAC Iをベースに製造。 |
MUSASINO-1 | 1957年 | ILLIAC Iをベースに製造された日本のコンピュータ。 |
EDSAC 2(英語版) | 1958年 | 初のマイクロプログラム制御装置とビットスライスハードウェアアーキテクチャを備えたコンピュータ。 |
IBM 709 | 1958年 | IBM 704の改良版 |
UNIVAC II(英語版) | 1958年 | UNIVAC Iの完全互換性のある改良版 |
UNIVAC 1105(英語版) | 1958年 | UNIVAC 1103の後継機 |
AN/FSQ-7(英語版) | 1958年 | これまでに製造された中で最大の真空管式コンピュータ。半自動式防空管制組織(SAGE)計画のために52台が製造され、1983年まで使用された。 |
ZEBRA(英語版) | 1958年 | オランダで設計され、イギリスのSTC社(英語版)が製造した。[13] |
Ferranti Perseus(英語版) | 1959年 | [14][15][16] |
TAC | 1959年 | 東京大学が開発したコンピュータ。 |
TIFRAC(英語版) | 1960年 | 初のインドで開発されたコンピュータ。ムンバイのタタ基礎研究所(英語版)が開発した。 |
CER-10(英語版) | 1960年 | 初のユーゴスラビアで開発されたコンピュータ。一部にトランジスタを使用していた。 |
Sumlock ANITA(英語版) | 1961年 | 世界初の卓上計算機 |
脚注
- ^ Hsu, John Y. (December 21, 2017). Computer Architecture: Software Aspects, Coding, and Hardware. CRC Press. p. 4. ISBN 142004110X. https://books.google.com/books?id=ZUe2ackElHEC 2017年12月29日閲覧。
- ^ “The G1, G2, and G3 of Billing in Göttingen”. www.quantum-chemistry-history.com. 2018年5月24日閲覧。
- ^ Research, United States Office of Naval (1953) (英語). A survey of automatic digital computers. Office of Naval Research, Dept. of the Navy. https://archive.org/details/bitsavers_onrASurveyomputers1953_8778395
- ^
- . Digital_Computer_Newsletter_V07N03_Jul55.pdf“COMPUTERS, OVERSEAS: 4. G1 and G2 (Goettingen, Germany)” (英語). Digital Computer Newsletter 7 (3): 11–12. (Jul 1955). http://www.bitsavers.org/pdf/onr/Digital_Computer_Newsletter/.
- “COMPUTERS, OVERSEAS: 4. Max-Planck-Institut fur Physik, G 1, G 1a, G 2, and G 3. Gottingen, Germany” (英語). Digital Computer Newsletter 10 (3): 15–16. (Jul 1958). http://www.dtic.mil/docs/citations/AD0694629.
- ^ technikum29-Team. “A first generation tube calculator: BULL GAMMA 3 - technikum29” (英語). www.technikum29.de. 2017年11月5日閲覧。
- ^ Tatnall, Arthur; Blyth, Tilly; Johnson, Roger (2013-12-06) (英語). Making the History of Computing Relevant: IFIP WG 9.7 International Conference, HC 2013, London, UK, June 17-18, 2013, Revised Selected Papers. Springer. pp. 124. ISBN 9783642416507. https://books.google.com/books?id=Y5e6BQAAQBAJ&lpg=PA124&dq=BULL%20GAMMA&hl=en&pg=PA124#v=onepage&q=BULL%20GAMMA&f=false
- ^ Research, United States Office of Naval (1953) (英語). A survey of automatic digital computers. Office of Naval Research, Dept. of the Navy. https://archive.org/details/bitsavers_onrASurveyomputers1953_8778395
- ^ Trueb, Lucien F. (2015) (英語). Astonishing the Wild Pigs: Highlights of Technology. ATHENA-Verlag. pp. 141–142. ISBN 9783898967662. https://books.google.com/books?id=o62DDgAAQBAJ&lpg=PA141&dq=%22ERMETH%22%20%22weighed%22&hl=en&pg=PA141#v=onepage&q=%22ERMETH%22%20%22weighed%22&f=false
- ^ “10 brilliant things to discover at the new-look Museum of Communication” (英語). Time Out Switzerland. 2018年6月4日閲覧。
- ^ “Computer Science Research at ETH” (英語). www.inf.ethz.ch. 2018年6月4日閲覧。
- ^ LGP 30, technikum 29: Living Museum, http://www.technikum29.de/en/computer/lgp30
- ^ Pegasus at the V&A, Computer Conservation Society, (June 2016), http://www.computerconservationsociety.org/ 2016年8月29日閲覧。
- ^ “Computer History Museum - Standard Telephones and Cables Limted, London - Stantec Zebra Electronic Digital Computer”. Computerhistory.org. 2017年4月24日閲覧。
- ^ Lavington, Simon Hugh (1980) (英語). Early British Computers: The Story of Vintage Computers and the People who Built Them. Manchester University Press. pp. 78. ISBN 9780719008108. https://books.google.com/books?id=AU28AAAAIAAJ&lpg=PA78&dq=Ferranti%20Perseus%201959&hl=en&pg=PA78#v=onepage&q=Ferranti%20Perseus%201959&f=false
- ^ Information, Reed Business (1959-03-05). “To compute Swedish premiums” (英語). New Scientist. Reed Business Information. pp. 517. https://books.google.com/books?id=dGk-B_pvnN8C&lpg=PA517&dq=Ferranti%20%22Perseus%22%20first&hl=en&pg=PA517#v=onepage&q=Ferranti%20%22Perseus%22%20first&f=false
- ^ . 195904.pdf“REFERENCE INFORMATION: A Survey of British Digital Computers (Part 2) - Perseus”. Computers and Automation 8 (4): 34. (Apr 1959). http://bitsavers.trailing-edge.com/pdf/computersAndAutomation/.
参考文献
- ジョエル・シャーキン 『コンピュータを創った天才たち―そろばんから人工知能へ』名谷一郎訳、草思社、1989年 ISBN 978-4794203564
- 遠藤諭 『計算機屋かく戦えり』 アスキー、1996年。ISBN 9784756106070