変位電流

(へんいでんりゅう、: displacement current)は、(でんそくでんりゅう)とも言い、電束密度の閉曲面における法線成分の面積分が時間的に変位し発生する電流である。電束密度を D {\displaystyle D} 、閉曲面を S {\displaystyle S} とすると次の式で表せる。

I = d d t S D n d S {\displaystyle I={\frac {d}{dt}}\int _{S}^{}D_{n}\,dS}

通常、電流は電荷の移動で発生するが、変位電流は電荷の移動で発生するものではないので、「変位」という名称が付けられている。単位は(通常の)電流と同じくアンペアである。電荷移動を伴う電流のことを、変位電流と対比して伝導電流と呼ぶ[1]

変位電流の例として、コンデンサの放電がある[2]

ジェームズ・クラーク・マクスウェルが、電磁気に関する第三論文の「電磁場の動力学的理論」で初めて導入し、著書の『電気磁気論』に記した。変位電流の導入によって、マクスウェルの方程式は完成し、そこから電磁波光速度が導かれた。

磁場との関係

アンペール-マクスウェルの式

C H d l = S ( j + D t ) d S {\displaystyle \oint _{C}{\boldsymbol {H}}\cdot \mathrm {d} {\boldsymbol {l}}=\int _{S}\left({\boldsymbol {j}}+{\frac {\partial {\boldsymbol {D}}}{\partial t}}\right)\cdot \mathrm {d} {\boldsymbol {S}}}

より、変位電流は磁場 H と関係づけられるが、変位電流は磁場の源になるのかという問いは現代の物理学者の間でも議論になるテーマである[3]。源にならないとする主張に対し、モデルの選択が不適切で一般化されていないといった指摘がある[4][5]。兵頭[6]は、「クーロン電場の時間微分は磁場の源にならない」といったことを説明している。「磁場を作る」という言葉使いが混乱を助長しているという指摘や[7]、磁場を伝導電流由来と変位電流由来のそれぞれに分離することは不可能[8]といった意見がある。

脚注

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  1. ^ コトバンク
  2. ^ 電磁気学II (PDF) 摂大・鹿間 2021年3月25日閲覧。
  3. ^ 高橋憲明「はじめに(変位電流とは何か)」『物理教育』第60巻第1号、日本物理教育学会、2012年、31頁、CRID 1390001204516217216、doi:10.20653/pesj.60.1_31、ISSN 0385-6992。 
  4. ^ 菅野礼司「変位電流と磁場の関係について(変位電流とは何か)」『物理教育』第60巻第1号、日本物理教育学会、2012年、32-37頁、CRID 1390001204516215424、doi:10.20653/pesj.60.1_32、ISSN 03856992。 
    菅野礼司「変位電流と磁場の関係 : 企画「変位電流とは何か」へのコメント(変位電流とは何か)」『物理教育』第60巻第3号、2012年、213-217頁、doi:10.20653/pesj.60.3_213。 
  5. ^ 斎藤吉彦「「変位電流は磁場を創らない」を考察するモデルについて(変位電流とは何か)」『物理教育』第60巻第3号、日本物理教育学会、2012年、209-212頁、CRID 1390282679493262592、doi:10.20653/pesj.60.3_209、ISSN 03856992。 
  6. ^ 兵頭俊夫「変位電流は磁場を"作る"か(変位電流とは何か)」『物理教育』第60巻第1号、日本物理教育学会、2012年、44-51頁、CRID 1390001204516204288、doi:10.20653/pesj.60.1_44、ISSN 03856992。 
  7. ^ 中村哲, 須藤彰三「変位電流は磁場を作るのか?(変位電流とは何か)」『物理教育』第60巻第4号、日本物理教育学会、2012年、268-273頁、CRID 1390001204516610048、doi:10.20653/pesj.60.4_268、ISSN 03856992。 
  8. ^ 北野正雄「変位電流をめぐる混乱について」『大学の物理教育』第27巻第1号、日本物理学会、2021年3月、22-25頁、CRID 1390006221183852544、doi:10.11316/peu.27.1_22、ISSN 1340993X。 

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