ランダムウォーク

曖昧さ回避 吉住渉の漫画については「ランダム・ウォーク (漫画)」をご覧ください。
2次元ランダムウォークの軌跡。

ランダムウォーク: random walk)は、次に現れる位置が確率的に無作為(ランダム)に決定される運動である。日本語の別名は酔歩(すいほ)、乱歩(らんぽ)である。グラフなどで視覚的に測定することで観測可能な現象で、このとき運動の様子は一見して不規則なものになる。

ブラウン運動と共に、統計力学量子力学数理ファイナンス[1][2]等の具体的モデル化に盛んに応用される。

数学的定義

X n {\displaystyle X_{n}} ( n = 1 , 2 , {\displaystyle n=1,2,\dots } ) を独立かつ同分布 R d {\displaystyle \mathbf {R} ^{d}} 確率変数族とする。この時、

S n = X 1 + + X n {\displaystyle S_{n}=X_{1}+\cdots +X_{n}}

を( d {\displaystyle d} 次元)ランダムウォーク (d dimensional random walk, RW) という。

特に、 X n {\displaystyle X_{n}} Z d {\displaystyle \mathbf {Z} ^{d}} 値であり、かつ、

P ( X n = e j ) = P ( X n = e j ) = 1 2 d {\displaystyle P(X_{n}=\mathbf {e} _{j})=P(X_{n}=-\mathbf {e} _{j})={\frac {1}{2d}}}

e j {\displaystyle \mathbf {e} _{j}} は、第 j {\displaystyle j} 成分が 1 の単位ベクトル)である時、Sn を( d {\displaystyle d} 次元)単純ランダムウォーク (d dimensional simple random walk) という。

直接的一般化として、結晶格子(結晶構造の抽象化)上のランダムウォークが定式化され、中心極限定理と大偏差の性質が小谷と砂田により証明されている[3][4]

確率密度関数 f ( x ) = 1 π x ( 1 x ) {\displaystyle f(x)={\tfrac {1}{\pi {\sqrt {x(1-x)}}}}} のグラフ

コイントスにおいて、コインを投げて「裏と表が出る確率」は、共に二分の一である。

数直線上の点について、コインを投げて表が出た場合に点を右(正の方向)に進め、裏が出た場合に点を左(負の方向)に進める試行(1次元のランダムウォーク)を無限回繰り返した場合に、点がある位置に存在する確率は正規分布で示される。

しかし、点が正の領域にいる時間の割合 x {\displaystyle x} の分布は、 1 π x ( 1 x ) {\displaystyle {\tfrac {1}{\pi {\sqrt {x(1-x)}}}}} の確率密度を持つ(負の領域にいる時間の割合は 1 x {\displaystyle 1-x} )。これは x = 0 {\displaystyle x=0} および x = 1 {\displaystyle x=1} で無限大に発散するグラフである。

すなわち、正・負のそれぞれの領域に半々ずつ点がいる確率よりも、どちらかの領域に多くいる確率の方がはるかに高い結果となる[5][6]

基本的性質

  1. 再帰性
    1または2次元の単純ランダムウォークは再帰的であり、3次元以上のランダムウォークは非再帰的である。[7][8]
  2. Donsker の定理の系
    Xn (n = 0, 1, ...) を平均 0 かつ分散 1 の独立かつ同分布な 1 次元ランダムウォークとし、
    S t = S n  if  t = n ,  linear   if  n < t < n + 1 {\displaystyle S_{t}=S_{n}\quad {\mbox{ if }}t=n,\quad {\mbox{ linear }}{\mbox{ if }}n<t<n+1}
    で定義すると、各 t ≧ 0 に対して次が成立する。
    P ( | S n t n B t | < ε ) 0  for all  ε > 0 {\displaystyle P\left(\left|{\frac {S_{nt}}{\sqrt {n}}}-B_{t}\right|<\varepsilon \right)\rightarrow 0\quad {\mbox{ for all }}\varepsilon >0}

応用

レビのダスト
宇宙空間の星の分布のモデルとして考えられた点の分布。点の進む方向をランダム、進行距離の分布が冪級数で与えられるようなランダムウォーク。
自己回避ランダムウォーク(英語版)[9]
軌跡が交差しないランダムウォーク。理論的な解析は困難。高分子の幾何学的構造[10]、海岸線などのモデル(自己相似)として利用されている。

脚注

  1. ^ ウィーナー過程フィナンシャル・アーティスト・アカデミー株式会社
  2. ^ Log normal distributionニューメリカルテクノロジーズ株式会社
  3. ^ M. Kotani, T. Sunada (2003). “Spectral geometry of crystal lattices”. Contemporary. Math. 338: 271–305. doi:10.1090/conm/338/06077. 
  4. ^ M. Kotani, T. Sunada (2006). “Large deviation and the tangent cone at infinity of a crystal lattice”. Math. Z. 254: 837–870. doi:10.1007/s00209-006-0951-9. 
  5. ^ ランダムウォークに関する話題から ―逆正弦法則について―小杉のぶ子(東京海洋大学 海洋工学部)
  6. ^ “つき”の数理-逆正弦法則について[リンク切れ]大阪大学基礎工学研究科会田研究室
  7. ^ ランダムウォーク[リンク切れ]
  8. ^ 電気回路とランダム・ウォーク2002年3月17日 確率統計委員会・深川久(豊中高校)
  9. ^ 井上純一 (2004年). “確率モデルを用いたフラクタル図形の作成に関する実験手引書” (pdf). 北海道大学. p. 12. 2020年5月18日閲覧。
  10. ^ ランダムウォークと統計力学岡部豊[リンク切れ]

関連項目

典拠管理データベース: 国立図書館 ウィキデータを編集
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